黄昏バラッド
:夢の狭間
「お疲れさまでしたー」
「お疲れっす」
閉店時間になり続々と従業員たちが帰る中、私は最後の後片づけをしていた。
あれからなにごともなく1日が終わったけど、私はずっと上の空。
サクのことを詮索したらダメなのに、やっぱり気になってしまう。サク本人に聞く勇気はないけど、だからって鉄さんや他の人に聞くのはずるい気がする。
「あー首いたっ。あれ?麻耶ちゃんまだ帰ってなかったんだ」
急にスタッフルームのドアが開いて、そこから出てきたのはもちろん鉄さん。
表情は普通だけど、ずっと閉じこもってたってことはやっぱり落ちこんでるのかな……。
「あの狭いソファーで寝てたら首寝違えちゃってさー」
鉄さんはそう言って首をゴキゴキと鳴らしている。
「もしかして……鉄さん寝てたんですか?」
鉄さんは涼しい顔でタバコに火をつけて、フーッと煙を天井にはいた。
「昨日夜遅かったからさー。みんなスタッフルームに入ってこねーし、思わず爆睡しちゃったよ」
あはは、と笑いながら言う鉄さんを私は呆れ顔で見た。
「みんな心配してたんですよ?鉄さんが落ちこんでるんじゃないかって。だから気を遣って入らなかったんじゃないですか」
ゆっきーさんもたかみーさんもみんなすごく心配してたのに。
「あ?なんで俺があの野郎に言われた言葉で落ちこまなきゃいけねーんだよ」
鉄さんはまた不機嫌になり、タバコを乱暴に灰皿に押し付けた。