黄昏バラッド


「店内は禁煙ですよ」

私はわざと冷たく言いながら、洗い終わった食器を棚に戻す。


「俺はいいんだよ。店長だから」

店長らしいことをしてないのに、こういう時だけ上手く利用するんですね。

鉄さんは冷蔵庫からお茶を取り出して、その流れで私にもなにかを差しだした。


「ほら」

それは店で出すオレンジジュース。


「いいんですか?勝手に飲んで」

「俺の店だぞ。いいに決まってんだろ」

正しくは店長代理の店、でしょ。

私も喉が渇いていたし、怒られるのは私じゃないからそのジュースを素直に受け取った。


それを口にした瞬間、ふっと〝あること〟を思い出した。


「なにニヤニヤしてんだよ。そんなにオレンジジュースが嬉しいの?」

「違いますよ。そういえばサクに初めて会った時もオレンジジュース貰ったなって思って」

あの不安でいっぱいだった夜の公園で。


まだ懐かしむには時間が経ってないけど、それでもサクと会ったことが遠い記憶のように思える。

それぐらい、なんていうか……サクは私にとって近い人。

すると鉄さんは私の言葉を聞いて意外な反応をした。


「あー……はは、そうだろうね。うん」
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