黄昏バラッド


「そうだろうねってなにがですか?」

私が聞くと、鉄さんは昔を思い出すような遠い目をした。


「俺たち男子校で女子と会う機会なんてなかったから、全然女のことなんて知らなくて」

「………」

「その時、このサンセットでひとりの女の子がバイトしててさ。その子がいつもオレンジジュースを飲んでたんだよ」

「………」

「あの時の俺らバカだったから、女はオレンジジュースが好きなんだって思いこんで。その勝手な思いこみが今も体に染み付いてるのかもしれねーな」


サクと鉄さんの学生時代。

その時に私はここにいなかったけど、ちょっとだけ学生のサクに会えた気がした。


「そうだったんですか。でも私もオレンジジュース好きですよ」

そう言って、鉄さんがくれたジュースを一口飲んだ。そんな私の姿をなぜか鉄さんはじーっと見つめている。


「な、なんですか?」

そんなに見られてたら飲みづらいんだけど。


「いや、そっか。あいつもオレンジジュースをね……」

「?」

「……やっぱり忘れてねーんだな」


私は鉄さんの言葉を聞こえないふりをして、ジュースをまた口に入れた。

なんとなく今の言葉で、サクの心に詰まってるなにかが見えた気がした。


知りたいけど知りたくない。

だって咲嶋亮が背負ってるものが、私が想像するよりもっと重いモノのような気がして。
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