黄昏バラッド


この歌は初めてサクに会った時に聞いた曲。

綺麗で切なくて自然に涙が出てきたっけ。


「……サクってどうやって歌詞を考えてるの?」

いつものほほんとしてるくせに、歌詞は直球で感情が溢れているから。


「うーん、頭に浮かんできたのを書いてるから、あんまり考えてないよ」

サクはまだ作曲に夢中で手は動いたまま。


他の楽譜を見てもどれも切ない歌詞だけど、友達とか家族とか歌とか日常とかそんなありふれたテーマで書いている気がする。


「そういえば……サクはラブソングは書かないの?」

世間で流れている音楽は愛とか恋とかそんなラブソングばかりなのに、サクの歌詞の中にはそれがない。

チラッとサクを見ると、サクの手がピタリと止まっていた。


あ、って思った。

聞いてはいけないことだったんじゃないかって、直感でそう感じた。

「あ、サク。私はべつに……」

話を変えようとすると、またサクの手が動き出した。


「俺、自分の曲に自己投影しないから」

……自己投影?(じことうえい)

それってラブソングを書くと自己投影になるってこと?


自分の体験したことを重ねたり、だれかを思い出して書いたり、理想を夢見たり。

だからサクはラブソングを書かない。


さっき一瞬、サクの顔がサクじゃなくなった。

本人は気づいてないだろうけど、私の知らない咲嶋亮の顔になってたよ。
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