黄昏バラッド
その言葉を聞いた尚さんはスッと立ち上がり、私を目睨みつけた。
「お前だれに口聞いてんだよ」
……やっぱり大人の人だし怒ると迫力が違う。でも。
「だ、だれってひとりしかいませんけど。ってか〝お前〟とか〝おい〟とかちゃんと名前があるので二度と呼ばないで下さい」
こんなことを言って殴ってきたらどうしよう。怖いけど私は間違ってない。
「じゃあ、美香ここに座れ」
尚さんは自分の向かいのソファーを指さした。
……はい?
「私、美香じゃありません」
「じゃあ、亜衣」
「違います」
「じゃあ、陽子、沙織、美咲、沙耶香、友里、舞、歩美、優子……」
「ぜんぜん違います」
尚さんは面倒くさそうに、ため息をついた。
「他にだれがいたっけ?結衣?美紀?茜?春香?」
「もういいです。ってかその名前だれですか?」
適当に言ってるのかもしれないけど、よくそんなに女の人の名前が出てくるなってちょっと感心してしまう。
「あー俺が振った女の名前」
感心は訂正。最低だな、この人。
「じゃあ、彩は?」
「違います。その人も振った人の名前なんですか?」
私は呆れた顔で壁に寄りかかった。
「これは俺が唯一、好きになった人の名前」