黄昏バラッド
……奪われた?
適当なことばかり言う尚さんだけど、これだけは本当っぽい。だって顔が真剣だ。
尚さんはそのあと時計を確認して「あー俺もう行くわ」と大きなサングラスを顔にかけた。
「鉄によろしく、豆ちゃん」
私の肩をポンッと叩いてスタッフルームを出ていく。
尚さんは嫌いだし失礼だけど、もしかしたらあのコルクボードに貼ってある写真を見にきたのかな?
確信なんてないけど、なんとなくそう思った。
「な、尚さん……!!」
気がつくと私は後を追いかけて名前を呼んでいた。
「あ?」
ちょうどサンセットのドアノブを握るところで、尚さんがこっちを見て私の言葉を待っている。
……どうしよう。呼び止めてしまったけど、私はなにが聞きたいんだろう?
「なんだよ?豆」
踏みこんじゃダメ。踏みこんだら絶対にダメ
ダメなのに――。
「あ……あの、トワイライトって尚さんにとってどんな存在だったんですか?」
これは途中で別の人と組んだ尚さんへの皮肉じゃなくて、ただ……。
「なんだよ急に」
ただ、私が聞きたいのは……。
「……もし、もし、サ……亮が戻ってきたら尚さんはどうしますか?」
こんなことを聞いたって私にはなにもできないの聞かずにはいられなかった。
これは安易な好奇心じゃない。
尚さんは一瞬考えたあと、ポツリと呟く。
「殴る。それで……泣く」
――ガランガランッ。
サンセットの扉の鈴が私の耳に響いている。
サクがどれほどの悲しみを背負っているのかは分からない。
ただ、待ってる人がいる。
5年経った今もトワイライトは終わってない。