黄昏バラッド


鉄さんの言うとおり、大通りでチラシを配り始めて30分。受け取ってくれる人は何人かいたけど、渡されたチラシはまったく減らない。

しかもみんな急ぎ足で渡しづらいし、さっきなんて目の前で渡したチラシを捨てられたし。

………やっぱり早くサンセットに行かなきゃよかった。


でも、だってサクが起きる前に家を出たかったんだもん。

昨日謎の涙を見ちゃったし、本人は無意識だろうけど〝おはよう〟って平然とした顔ができるほど私は器用じゃない。


ああ、こんなことを考えていたらまたサクのことが気になってきた。今日は休みだし、どこか買い物にでも行ってるのかな。


「麻耶……?」

――ドクンッ。

私の名前、この嫌な鼓動。


ドクンドクンドクン……。

なんで?どうして?

振り向きたくない。私に気づかないで。


「やっぱり麻耶じゃん!こんな所で何してんの?」


嫌だ。会いたくない、思い出したくない。

そのためにこの街に逃げてきたのに。


「ってかみんな心配してるよ?麻耶の親も大騒ぎで警察に捜索届け出すとか言ってるし」
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