黄昏バラッド


……ライブか。前に鉄さんに誘われたけど結局1回も行ってないし。


「ねー尚。昔バンド組んでた仲間も呼べば?店長の鉄さんとあともうひとり……あれ、名前なんだっけ」


ドキッとなぜか自分のことのように私が動揺する。

その話題がでた瞬間、事情を知ってる何人かが戸惑った顔をしたのを私は見逃さない。


「あいつは来ねーよ。どこにいるかもわかんねーしな」

尚さんは不機嫌そうに煙草を乱暴に吸った。


……そっか。尚さんはサクがこの街にいるって知らないんだね。

そんな中チラッと鉄さんと目が合い、そっと首を横に振られた。……そうだよね。ここでサクのことを言ってもどうにもならない。

もし本当にサクが〝トワイライト〟を捨ててしまったのなら余計にツラくなるだけ。


私だって、できればライブをサクと一緒に見たいよ。

難しいことなんて考えないで、ただ純粋にサクと音楽を楽しみたい。

あの地響きのような音と胸を打つ爆竹のようなメロディーの空間をともに共有したい。


……ねえ、サクは5年前ステージの上にいたんでしょ?


そこから見ていた景色と公園で歌っている景色。

どっちがサクにとって輝いてるものだったの?
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