黄昏バラッド
「でもダメ。この曲が気に入らないなんて思えない」
「……?」
サクは布団に寝たまま、私から白紙の紙を取り上げた。
「これはね、ノラに会った日に思い浮かんだ曲だから」
……なにそれ。いきなりそんなこと言うなんて反則だよ。だってどんな反応したらいいか分からなくなるから。
私は戸惑いながら逃げるようにベッドに転がった。
「ふ……ふーん。思い浮かばないなら私が書いてあげるし」
なに言ってんだろ。
歌詞なんて書いたことないし、適当にもほどがある。
「えー?ノラが?はは、猫みたいな歌になりそう」
「な、猫みたいな歌ってどんな歌?」
絶対私のことバカにしてる。
まあ、歌詞なんて書けないしサクの曲はサクが作らなきゃ意味がないの。
「うーん。暖かい歌。ノラみたいな」
……ほら、やっぱりバカにしてる。
私が暖かい?そう感じるのはサクが熱すぎるからだよ。
「ねえ?サク」
私はベッドに寝たまま、天井を見つめた。
「んー?」
隣ではまたサクの鼻唄が聞こえてきた。このメロディーに乗せてちょっと勇気を出してみる。
「サクは〝音楽〟が好き?」
わざとそんな言い方をした。
だって歌と曲と歌詞を全部合わせて音楽でしょ?
「なーに突然?」
サクはまだ気づいていない。私がこれから言おうとしてることに。
「――ねえ、私と一緒にライブに行かない?」
黄昏時、音を楽しむことを覚えたサクの原点へ。