黄昏バラッド


いつの間にか時間は過ぎ、部屋の窓からはオレンジ色の光りが差し込んできた。

私はチラッと時計を確認した。


時間は5時ちょっと前。もうすぐサクが帰ってくる。

……たまには迎えに行ってあげようかな。


私は家の鍵だけを持って外に出た。きっと帰ってくる道を歩いていれば会えるはず。

頭の中にはまだライブの文字が浮かぶけど、もう考えない。


サクに会ったら〝おかえり〟って笑顔で言ってあげよう。

夕日が綺麗だねとかお腹がすいたねとか、そんな雑談をしながら。


「あ……」

私の視界にサクの姿が見えた。

少し遠いけどあの身長、あの背格好は絶対サクだ。


「サク!」

私は走って駆け寄って、サクも私に気づいたみたい。


「……ノラ」

あれ、あんまり驚かない。

私が迎えきたのは初めてなのに。


「サクおかえり。お腹すいて……」

そう言った瞬間〝なにか〟違和感を感じた。


その違和感の方に目を向けると……サクの手が私の服を掴んでいる。

その手はあまりに弱くて、今のサクの感情そのもの。

まるで子供みたいになにかを訴えてるように見えた。


本当はずっと考えていたんでしょ?

気にしないふりをして、普通の日常を送ってるふりをして。

本当は私と同じで頭はそのことばかり。


……サク、いいの?

私から答えを導くように、この言葉を言ってもいいの?



「――サンセットに行く?」


あえてライブではなく、サンセットと言った。


きっとあの場所にはサクが思い出したくないものが詰まってる。

逃げて、逃げて、逃げ続けたいほど、背けたいものがある。



「……少し、行く」

それはあまりに弱々しくて、言葉にするのも怖かったんだね。

私はサクの手を引きながら、そのままサンセットへの道のりを歩いた。

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