黄昏バラッド
しばらく演奏が続き、店内の盛り上がりは最高潮。
次に聞こえてきたのは今までとは違う優しい音色。
――♪♪♪……。
これはラブソングのバラードだ。
私がイーグルの曲に引き込まれる中、チラッと店内にいる鉄さんと目が合った。
それと同時にサクが口を開く。
「……もう帰ろう」
サクはそう言って私の手を引っ張った。
その足は早歩きで、どんどんサンセットから離れていく。
「――亮っ!」
その背後で叫ぶ声。
ハアハアと息を切らせて追ってきたのは鉄さんだった。
サクはその声に反応して無言で後ろを振り返った。
「……中に入ってこないのか?懐かしい仲間がいっぱいいるぞ」
きっと言いたいことは沢山あるけど鉄さんの口調は優しかった。だけどサクと鉄さんの距離は縮まらない。
まるでその間には見えない壁があるみたいに。
「……俺は入らない。もう帰るよ」
サクは一度も鉄さんと目を合わせず、再び歩きはじめてしまった。
遠退いてくサクの背中を見た鉄さんが珍しく声を荒げる。
「……っ亮!!べつにお前が音楽とかこの場所とか思い出したくないならそれでもいいよ!」
それでもサクの歩く足は止まらない。
むしろ歩く歩幅がさらに大きくなる。