黄昏バラッド
鉄さんはそんなサクを見ながら叫び続けた。今まで言えなかった想いをぶつけるように。
「お前が違う名前を名乗って全然違う土地で暮らして、それでお前が笑って生きてりゃそれでいいよ!」
「………」
「でもお前なにも変わってねーじゃん!5年前となにも変わってねえ」
「………」
「昔のことを忘れたいから音楽をやめたんだろ?あのことを思い出したくないから俺らから離れたんだろ?」
「………」
「それならなんでお前今もツラそうな顔してんだよ」
……ピタッ。
その言葉にサクの足が止まった。
鉄さんは声を震わせながらサクに訴える。
「逃げても逃げても逃げられねーなら受け入れろ!!」
「………」
「それができないなら泣けよ。苦しいって忘れられないって俺らの前で泣けよ!亮!!」
サクの手がまた震えていた。
この震えはさっきとは違う。
サクの喉元にはたくさんの言葉が出かかっているのに、結局鉄さんに何も言わないまま歩き去ってしまった。
「………」
そして、家路へと帰る途中。私たちはずっと無言だった。
なんて声をかけたらいいのか分からない。
やっぱりサンセットに連れてくるべきじゃなかったのかな。
鉄さんの言葉はサクに響かなかったの?
――『逃げても逃げても逃げられねーなら受け入れろ!!』
今もそれが私の頭の中で響いてる。
まるで自分に向けて言われたみたいに、ガツンと頭を叩かれた感じ。
「……やっぱりリセットなんてできないね」
これは私の独り言。
勝手な勝手な独り言だよ。
「……うん、俺もそう思う」
そんな言葉が聞こえた頃にはすっかり黄昏の空は消えていた。