黄昏バラッド
鉄さんもあれからサクの話を一度もしてこない。いつもなら「なにか言ってた?」とか聞いてきそうなのに。
この妙な感じが私には心地悪かった。
「まあでも、狭いところで音楽やるのも悪くねーな。仲間たちもまたやりたいって言ってたし」
尚さんは満足そうな顔をしている。
いつもこんな表情なら憎らしくないのになあ。
「やるなら別の場所でやれよ?もうわがままは聞かねーからな」
鉄さんは腕組みしながら呆れた顔をしてるけど、なんだかちょっと嬉しそうに見えるのは私だけ?
尚さんとも昔からの付き合いだろうし、きっと切っても切れない縁なんだと思う。
「……あの、ふたりはなんでバンドを始めたんですか?」
私はお客さんがいなくなったテーブルを拭きながら聞いてみた。
だってこのふたりが同じバンドを組んでたなんて今でも信じられないから。
「あ?いつ俺様に質問していいって言ったんだよ?豆」
……はい、はい。
尚さんの意地悪にも慣れてきちゃった。
「バンド始めたのは高校1年の時だよ。勿論こいつも」
それに比べて鉄さんは嫌な顔ひとつしない。
「ふん、音楽始めるにしては遅すぎだったけどな」
結局答えてくれる尚さんもやっぱり憎めないんだよな……。