黄昏バラッド



「……その、キッカケとかあったんですか?」

こんなことを聞いたらまた怒られちゃうかな。

でも私には趣味もないしやりたいこともないから、夢中になれるものを見つけたキッカケぐらい聞いてみたい。


「亮だよ」

鉄さんは洗った食器を棚に戻しながらぽつりと答えた。


……やっぱり聞いたらダメだったのかも。

今はなんとなくサクの話題はしにくい。


「ふん、あいつにそそのかされたんだよ。暇してるならやろうよ、楽しいからってな」

いま少しだけ尚さんに救われた。ダメだと思った話の糸を繋いでくれた気がしたから。

それに背中を押されるように鉄さんも表情も変わった。


「亮はもっと前から音楽をやってたらしいけど。簡単だからやってみようよ!とか言われてやったけど全然簡単じゃねーし」

「本当だよ。まあ、簡単じゃなかったらハマったんだけどな」


ふたりはなんだか懐かしそうな顔をしていた。


……嬉しいな。

鉄さんと尚さんがこんな風にサクの話をしてることがすごく嬉しい。

だけどそれは長く続かない。


「……それなのにあいつが先に音楽を捨てやがった。だから俺は許せねーんだよ」

「………」

いい雰囲気だったのに、尚さんのひと言でまた空気が変わってしまった。

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