黄昏バラッド


長く一緒にやってきたからこそ簡単には許せないし、簡単には戻れない。

これだけは私が踏み入れられない領域だ。


「亮だってやめたくてやめたわけじゃねーよ。お前だって分かってるだろ」

鉄さんはサクを庇うように尚さんが言ったことを否定した。


「はっ、あいつがやめた理由なんて分からないね。ただ現実から逃げただけじゃねーか」


……どうしよう。

また喧嘩みたいな空気になってきちゃったよ。

尚さんの言葉に鉄さんはガシャンと食器を置いて睨み付けた。


「そんな言い方すんなよ。あいつは今も俺たちの仲間だろ?」

「は?仲間?音楽を捨てたヤツなんて仲間じゃねーよ」

「てめえ……」

「お前だって思ってんだろ?あいつがバンドを抜けなかったらデビューできたって」

「………」

「あいつが捨てたのは音楽だけじゃねー。俺たちの夢も一緒に捨てたんだよ」


――ガタンッ。

鉄さんの拳が尚さんに向いた瞬間、私は声を上げた。


「やめてっ!!」

店内に響いたその声に、店にいた人たちの視線が私に集中した。

< 146 / 270 >

この作品をシェア

pagetop