黄昏バラッド
長く一緒にやってきたからこそ簡単には許せないし、簡単には戻れない。
これだけは私が踏み入れられない領域だ。
「亮だってやめたくてやめたわけじゃねーよ。お前だって分かってるだろ」
鉄さんはサクを庇うように尚さんが言ったことを否定した。
「はっ、あいつがやめた理由なんて分からないね。ただ現実から逃げただけじゃねーか」
……どうしよう。
また喧嘩みたいな空気になってきちゃったよ。
尚さんの言葉に鉄さんはガシャンと食器を置いて睨み付けた。
「そんな言い方すんなよ。あいつは今も俺たちの仲間だろ?」
「は?仲間?音楽を捨てたヤツなんて仲間じゃねーよ」
「てめえ……」
「お前だって思ってんだろ?あいつがバンドを抜けなかったらデビューできたって」
「………」
「あいつが捨てたのは音楽だけじゃねー。俺たちの夢も一緒に捨てたんだよ」
――ガタンッ。
鉄さんの拳が尚さんに向いた瞬間、私は声を上げた。
「やめてっ!!」
店内に響いたその声に、店にいた人たちの視線が私に集中した。