黄昏バラッド
「それなのに5年も活動してないバンドが気に止められるって本当に奇跡みたいなことだぜ?」
尚さんは間違ったことは言ってない。
毎日ライブハウスで音を出しても夢を掴めない人がたくさんいるのに、活動をやめたトワイライトに夢を見た人がその夢を諦められずにいる。
トワイライトってバンドは確実に人の心を掴んでた。
それって本人の意志なんか関係なく、すごくすごく凄いことだよ。
「……たしかにありがたい話だけど、やっぱり亮が動かなきゃどうにもならねーよ」
そう言った鉄さんの顔は切なそうだった。
きっと、喉から手が出るほど掴みたい話なんだろうね。
だって尚さんの言うとおり、チャンスは何度も巡ってこないから。
〝俺はあいつの曲で、あいつの歌でベースがやりてーんだよ〟
鉄さんにとってサクが動かなきゃなにも始まらない。
トワイライトは動き出せない。
「おい、豆。俺たちの話し聞いてたか?」
……え、なんで急に私?
「き、聞いてましたけど」
むしろ聞こえてないほうがおかしいよ。こんなに近い距離にいるんだから。
「だったら亮に言っとけ。音楽を捨ててねーなら俺に会いに来いってよ」