黄昏バラッド
私は大きく深呼吸して目を瞑った。
大丈夫、もう怖くない。
「相づちとか返事とかいらないから私の話を聞いてくれる?」
迷う暇さえないぐらい一方的に話すから。
「……話?うん、聞くよ」
暗闇の中でサクの優しい声が返ってきた。
「しゃ、喋ったら罰ゲームだからね!絶対に私の話に反応しないでね!」
「喋ったら罰ゲーム?はは、うん。分かったよ」
私はもう一度大きく息を吸った。
逃げていた過去、忘れられないあの光景が今も頭に浮かんでくる。
「私ね、先生と付き合ってたの。同じ学校の物理の先生」
サクは本当になにも返してこなかった。
でもこれでいいの。
なにか言われたら私の決意が鈍くなるから。
「高校に入学した日に自分の教室が分からなくて案内してくれたのがその先生」
「………」
「教師の中では一番若くてけっこう生徒に人気のある先生だった」
「………」
「でも私はあんまり興味なくて、先生とは授業以外話さなかったし、下の名前すら知らなかった」
こんな私がなぜ先生に惹かれたのか。
私は当時を思い出しながらサクに告げた。