黄昏バラッド
気づくと外は真っ暗になってて、校内には私たちと限られた人しか残っていなかった。
『ありがとう。助かったよ。お礼に駅まで送って行くよ』
『べつに平気です』
私は断ったけれど危ないからと言われ、先生の言葉に甘えることに。
先生の車は黒いワゴン。車内では流行りの曲が流れていた。
『北原ってお喋りなほうじゃないよな』
なにを思ったのか先生は運転しながらそんなことを聞いてきた。
『べつに普通です。ただ……』
『ただ?』
私は暗い車内で通りすぎる街灯をぼんやりと見つめた。
『ただ男の人の車に乗ったのは初めてなので、なにを喋ったらいいか……』
言ったあとで後悔した。
だって先生は教師なわけで、男の人と認識するのはおかしいことだから。
『はは、俺もこの車に女の子を乗せたのは北原が初めてだよ』
私の緊張をほぐそうとしてるのか先生はそう言った。
高校1年生。
中学校とは違い、男女を意識する年齢。
今まで恋や異性と親しくしてこなかった私は、
先生の言葉に少しドキドキしていた。
車は進み、駅に着く手前の赤信号。
この信号が青になったら駅に着く。
そしたら車を降りて先生にお礼を言って、それで終わり。
信号はなぜかとても長くて、永遠に感じるくらい。
『北原』
名前を呼ばれ横を向くと、先生は私にキスをしていた。
それはたった一秒のことで、私の世界を変えた瞬間だった。