黄昏バラッド


結局私は友達には言わない決断をした。

先生のことは少し意識するけど、普通に接しなきゃ。今日も物理の授業があるし。

私は平然を装いながら、4限目の物理の授業が始まった。もちろん先生は普通だし授業も通常どおり。


大丈夫、私も普通にする。

昨日のことは事故だって思うことにするから。


『北原、このあと物理室に来い。昨日のレポート間違ってたぞ』

――ドキ……。

チャイムが鳴って授業が終わると先生は私にそう言った。

周りの友達はそんな私の動揺に気づくことなく、『先に食堂に行ってるね』と笑顔で見送られた。


……レポート?私間違ったこと書いたっけ?

私は昼休みを利用して、また物理室にひとりで行った。先生とのふたりだけの空間。嫌でも昨日のことを思い出す。


『あの……レポートって』

私はドアに近い場所に立ち、先生の顔を見れなかった。


『……昨日のこと謝ろうと思って』


……謝る?


『突然あんなことして本当にごめん!北原は生徒なのに』


……あんなこと?

私は気がつくと目から涙が溢れていた。

この涙はファーストキスを奪われたからじゃなくて、自分に腹が立ったから。

本当は少し期待してた。

またこの物理室に来て、日常とは違うなにかが起こるんじゃないかって。


『き、北原……』

先生が慌てて寄ってきたけど、私はそれを手で払いのけた。


『謝るならしないで下さい!生徒だって思うなら初めからしないで下さ……』


ふわり、と大人の人の香り。

またあの感触。今度は一瞬じゃなく長い間。


『初めて見た時から気になってた。俺たち付き合わないか?』

それから私と先生の秘密ごとが始まった。

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