黄昏バラッド
それは私も思う。
鉄さんや尚さんにサクのことを聞くのは簡単だけど、サクの気持ちはなにも変わらない。
鉄さんの言うとおり私が踏み込んでもいいのかな?
私にしかできないことってなんだろう?
「ノラどうしたの?」
時間は過ぎ、夕暮れ時。
サクはいつものように中央公園で歌う準備をしていた。
「う、ううん。なんでもない」
私は昼間のことを思いだし、ボーッとしていたみたいだ。
サクが最初に弾いたのは、あの歌詞のないメロディー。
鼻唄で歌声を乗せているけど、やっぱり歌詞はまだできてないらしい。
サクはどうしてこんないい曲が作れるんだろう。
とくにこの黄昏時に聞くと、無性に胸がギューッってなる。
「……ねぇ、サク。これから独り言言ってもいい?」
私はサクが弾くギターの手を無意味に見つめて呟いた。
「はは、いいよ。聞こえないふりするから」
――♪♪♪……。
サクのメロディーを聞きながら、公園に浮かぶ私たちの影がオレンジ色に染まっていく。
「サクはトワイライトとしてもう歌う気はないの?」
たぶん、いま初めて私は咲嶋亮の領域に踏み込んだ気がする。