黄昏バラッド
サクは私の髪を乾かしたくせに、私がやると言ったら恥ずかしそうな顔をした。だけど私はお構い無しに片付けようとしていたドライヤーを取りあげてスイッチを入れる。
「俺、だれかに乾かしたもらうの初めてだよ」
だけど少し嬉しそう。
サクは私の髪を乾かすからだよ。そうしなかったら私だってこんなことはしなかった。
サクの髪は細くて柔らかい。乾かしてる時に右耳にもホクロを見つけた。きっとこれは本人でも知らないと思う。
「ノラありがとう」
ドライヤーが終わるとサクは迷わずお礼を言った。
そんなの別にいいのに。……でも少し羨ましい。そうやってすぐお礼を言えたり、自分の感情に素直なところ。
もし私もあの時に正直でいたら……。
「ノラ?どうかした?」
ふっと我に返るとサクが私の顔を覗きこんでいた。
「……別になんでもない」
そう、なんでもない。
もう関係ない。私は私を捨てたんだから。
「もう寝ようか。ノラも疲れたでしょ?」
違う世界で知らない人と一晩過ごせば、昨日までの自分なんてすぐいなくなるよ、きっと。