黄昏バラッド
どのくらい時間が経っただろう。
抱きしめている私の手からサクの冷えた体温が伝わってくる
。でもなぜか私は寒くなくて、サクに風が当たらないように無意識に包み込んでいた。
ねえ、サク。
不謹慎だけど私は少し嬉しいの。
だって今、弱虫なサクを守ってる気がして。
咲嶋亮に初めて触れられた気がして。
「……ごめんノラ。もう大丈夫だから」
暫くしてサクはゆっくりと顔を上げた。いつもジッと私の目を見てくるくせに目線は伏せたまま。
大丈夫じゃないくせにサクは嘘つきだ。でもそのぐらいサクにとって簡単には打ち明けられないことなんだね。
「家に帰ろう。お腹空いたでしょ?」
サクはそう言って座っていた腰を上げた。
風になびくサクの黒髪がその表情を隠す。
「………」
私は無言で立ち上がり、歩き出すサクの後ろに付いて行った。
「すっかり冷えちゃったね。風邪ひいたら俺のせいにしていいよ」
なんて、サクはまた元通り。私はサクみたいになにもなかったように普通にはできないよ。
本当は今日、昼間に出したシークレットのねんねこストラップをサクに見せて驚かせる予定だったのに、もう全然そんな雰囲気じゃなくなっちゃった。
「……ねえ、ノラ。手繋いで帰ろうか」
突然サクがそんなことを言った。
「……うん」
そう返事をすると、暗闇でサクと私の手が繋がった。
その手は大きかったけど、やっぱり弱虫。
だって、繋いだ手を痛いくらい強く握ったのはサクだから。