黄昏バラッド
いつの間にか私のお皿を洗う手はピタリと止まっていた。
「サンセットにだって来たくないはずなのに、息切らせてあっさり顔だしやがった」
「………」
「これってけっこうすごいことだよ。正直ビックリするぐらいにね」
……これは喜んでいいの?私的には嬉しいけど、鉄さんの気持ちを考えたらやっぱり複雑だよ。
「ちなみに亮に電話しろって言ったのは尚だから。俺は麻耶ちゃんを送って行くつもりだったし」
尚さんが?あれだけ口論したあとに怒って出て行っちゃったくせに。鉄さんはその時のことを思い出すように、私に教えてくれた。
「なんか平行線のまま変化してることも気づいてないヤツには誰かが渇を入れねーと。って訳わかんないことを言ってたよ」
鉄さんは首を傾げていたけど、私にはその意味が分かった気がした。
だって私とサクは自分自身のことを理解するのが苦手だから。
進んでいるのか、止まっているのか。
変わっているのか、変わっていないのか。
それさえも気づくのに時間がかかる。
どこまでが本心でどれが嘘だったのか見抜く力はないけど、次に尚さんに会ったらお礼を言わなきゃ。
尚さんに意地悪な渇を入れられたおかげで大切なことに気づけたから。