黄昏バラッド


公園の向こう側でこの空気と不似合いなアップテンポのメロディーが流れている。だけど今はそのメロディーよりも、自分の鼓動のほうがうるさい。

なんてサクに声をかけたらいいのか分からなくて、私はなにも言葉が出てこなかった。


「その日は彼女の誕生日で海に行く約束をしていた。その途中で事故に遭って……」

サクの言葉が止まった瞬間に私は思わずサクの手を握った。


「サク……ツラいなら喋らなくてもいいよ」

聞いているこっちまで胸が苦しくて張り裂けそうだ。


「ううん、聞いてノラ。たぶん今話さなかったら俺は一生話せないから」

サクはそう言って私の手を握り返した。


「プロポーズしようと思ってたんだ。彼女の好きな海で、彼女のためだけに作った歌を歌いながら」


……ドクン。また心臓が速くなる。

サクに出逢ってから、サクの男らしい部分はあまり見たことがなくて。だから彼女ができたらどんな風に接するのか考えた日もあった。

でもサクの口から〝プロポーズ〟という言葉を聞いて、本気だったんだなって。

本気で彩さんのことが好きだったんだなって思った。


一生一緒にいたいと思える相手にサクは出逢っていたんだね。
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