黄昏バラッド


「今思えば若かったけど、それでも結婚したいほど大切な人だったんだ」

サクが大切と言うと言葉の重みが全然違う。不謹慎だけど、こんなにサクに想われて少し彩さんが羨ましい。

こんな風に思ってしまう私は、やっぱりまだ子どもなんだと思う。


「……ねえサク。私前にねサクの楽譜を見たことがあるの」

心の奥底に閉まっておいたあの光景。

「楽譜の山に埋もれた一枚の楽譜。真っ黒に塗りつぶされたあの楽譜って……」

「……うん。彼女のために作った曲だよ」


……やっぱり。サクがプロポーズしようとして書いた楽譜。


「なんでそんなこと……」

私はあの楽譜を見た時に何故か悲しかった。それはせっかく生み出されたメロディーが塗りつぶされていたから。

だってサクが作る歌は綺麗でとても魅力的なのに、〝なかったこと〟にされてしまった楽譜があまりに可哀想で。


「あの楽譜を見る度にツラくて……。なんで俺じゃなかったんだろうって。同じ車に乗ってたのに。あと1分1秒違っていたら予定どおりに海に行っていたのにって」


私ね、神様なんて信じない主義だし、人間は生まれた瞬間から運命は決まっているものだと思ってる。

だったらサクが事故に遭って、彩さんが亡くなったのも生まれた瞬間に決まっていたことなの?

それなら何故ふたりは出逢って愛し合ったんだろう。

運命は残酷で、神様なんてやっぱりいないんだよ。

でも、でもね……。
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