黄昏バラッド
サクが大好きな音楽と仲間を捨てたのは現実から逃げたかったんじゃない。
サクは自分を守るためにその道を選んだんでしょ?彩さんを思い出す場所はサクにとってあまりにツラすぎるから。
それならどうして?
「どうしてサクは、また歌を歌う場所に戻ってきたの?」
私が知っているサクはもう〝唄う人〟だった。
何度も何度も私の前で綺麗なメロディーを聞かせてくれた。
「前にも言ったとおり自分のためだよ」
……ああ、そっか。そうだったんだ。
だからサクの曲はどれも切なくて、どれも悲しい。
サクは心の奥に閉まった感情を歌にして表に出していたんだね。誰にも言えない悲しみ、苦しみをメロディーに乗せて吐き出すように。
サクが歌う意味。歌わずにはいられない理由が今はっきりと分かったよ。
「……ねえノラ。あの日暗闇の中、救いを求めたのは俺のほうだったんだよ」
サクがギュッと私の手を強く握るから、私も負けずに握り返した。
違うよ。私もあの夜、サクに救われたの。どこにも行くあてのない私をサクが拾ってくれた。
きっと出逢ったあの瞬間から、私たちはお互いに弱虫だった。
先の見えない暗闇に怯えて、うずくまることしかできない野良猫だったんだ。