黄昏バラッド


出勤時間まではまだ余裕があったため、私たちはバイクには乗らずに歩いてサンセットに向かうことにした。

鉄さんはバイクを押しながら、くわえ煙草に火をつける。


「話って?……なにかあった?」

改めて話したいことがあると言ったせいか、鉄さんは心なしか落ち着かない様子だ。


「こういうことって言っていいのか分からないんですけど、なんとなく鉄さんには言わなきゃと思って」

「んー?」

鉄さんはずっと私とサクのことを気にかけてくれた人だから。


「昨日、サクから彩さんのことを聞きました」

その瞬間、鉄さんの煙草の灰がコンクリートにぽとりと落ちた。


「そっか。亮のヤツやっと話したんだ」

鉄さんはあまり驚いていなくて、むしろどこか安心しているような顔だった。


「麻耶ちゃんにはいつか話すだろうと思ってたけど。まあ、とりあえず一歩前進したんだなあいつ」

一歩前進と聞いて、私の歩く足はピタリと止まった。


「……サクは今も全部自分のせいにしてます。彩さんが亡くなったのも鉄さんの夢を潰してしまったのも、トワイライトのことだって」


多分、その罪が消えない限りサクは前に進めない。

ううん、サクが前に進もうとしないんだと思う。


「あの事故は100%相手側の過失。亮は一切悪くない不幸な事故だったんだよ」

鉄さんは当時を思い出すような遠い目をしていた。

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