黄昏バラッド


そのあとのバイトは通常営業で、サンセットに着いてからは鉄さんとサクの話はしなかった。

私はサクの奏でるメロディーや声が好き。だからこそトワイライトの亮が歌う姿を見てみたい。
これは私の勝手なわがままだけど。

そんなことを思いながら、バイト終わりの道をトボトボと歩き続けた。


――ガチャッ。

アパートに着いてドアを開けると、すぐに心地よい音が聞こえてきた。




……♪♪……♪♪。

サクが珍しく部屋の中でギターを弾いている。鼻唄まじりで歌う曲は歌詞のないあのメロディー。

その後ろ姿がカッコよく見えて、暫く私は見入ってしまっていた。


「……♪♪……あ、ノラ。おかえり」

私に気づいたサクはニコリと笑って鼻唄を止めた。


「そんなところに突っ立ってどうしたの?帰ってきたなら声かけてよ」

サクはそう言ってギターをスタンドに置いてしまった。


「なんで止めるの?もっと聴かせてよ」

サクの歌はサクのものだけど、部屋で聞くメロディーは私の耳にしか入らない。それが独り占めしているみたいで贅沢に思える。


「この曲はまだ完成してないからダメ。歌詞もまだ思い付いてないしね」

私の要望はサラリの流されてしまった。
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