黄昏バラッド


今が暗闇でよかった。

またサクのその優しさに泣きそうだから。


「今日もう安心して寝な。明日のことはまた明日考えればいいんだから」

そうサクは笑って布団へと戻った。

こんな時、ありがとうって素直に言葉がでればいいのに。


暫くすると横からサクの寝息が聞こえてきた。そういえば誰かの寝息を聞いたのは久しぶりかもしれない。

その可愛い寝顔を見ながら私はベッドに横になった。サクの匂いがするベッドはなぜか心地よくて私は目を瞑る。


なにも知らない街にきて、名前も知らない人に出逢って、知らないベッドで夜を過ごす。

私にとってこれは大冒険で明日からはどうなるか分からない。でも今だけは……。


この瞬間だけは心から安心できた。

それはサクの優しさと温かさに救われたからだと思う。
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