黄昏バラッド

***


次の日の朝。サクの仕事は休み。

サクは午後から公園に行って夕方まで歌うらしい。仕事が終わったら私も行くと約束をして家を出た。

今日バイトが休みだったら1日中サクの歌を聞けるのになあ……なんて思いながら歩いていると、珍しい人物に声をかけられた。

歩く私の横に黒いワンボックスが停まり、窓が静かに開く。


「よっ豆」

「な、尚さん……!」

助手席に乗っていた尚さんはそのまま車を降りて、勢いよくドアを閉めた。


「ここでいい。帰りはまた連絡するからよ」

運転しているのはマネージャーさんだろうか。尚さんの言葉を素直に聞き、そのまま走り去ってしまった。


「バイトだろ?俺もサンセットに行く途中だったんだよ」

これはどういう風の吹き回しだろう。尚さんが私と並んで歩くなんて。


「なんか機嫌がいいですね。いいことでもあったんですか?」

いつもの尚さんだったら絶対あのまま車で通りすぎて、「わざわざ歩きなんて可哀想なヤツ」とか去り際に皮肉でも言いそうなのに。


「来週からツアーが始まるんだよ。やっぱりバンドはでかい場所でやらねーと」

イーグルのツアーか。改めて尚さんってすごい人なんだなって実感した。
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