黄昏バラッド


「尚さんは……いつから彩さんのことが好きだったんですか?」

だって彩さんは16歳からサクと付き合っていたんでしょ?


「さあな。覚えてねーよ。でも多分ずっと好きだった。それに気づいたのは亮と付き合ってからだけど」

だから尚さんは前に彩さんを奪われたって言ってたんだ。ずっと前から彩さんを見ていたのに、出逢ってすぐのサクと付き合ってしまったから。


「……想いを伝えようとは思わなかったんですか?」

人に想われて嫌な気分になる人はいない。彩さんだって尚さんの気持ちを知ったら喜んでくれたはずだよ。


「亮が仲間じゃなければ伝えてた。もしかしたら無理やりでも奪ったかもしれない」

「………」

「でも相手が亮だったから。あいつの歌を聞いて惚れねーヤツはいない。俺もそのひとりだったしな」

……そっか。尚さんの嫉妬は彩さんだけじゃなくてサクの才能にもあったんだね。


「だから余計に俺はあいつが許せない。亮の歌は高瀬に届く。それが一番の供養になるって分かってねーんだよ」

彩さんの姿は見えないけど、誰よりもサクの歌を愛していたと思う。

今の悲しいだけのメロディーを聞いて彩さんは笑ってくれる?尚さんの言うとおりサクの歌は……。

サクの歌声じゃないと彩さんに届かないんだよ。
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