黄昏バラッド
「素人じゃねーんだ。焦って練習しなくてもドラムの感覚は体に染み付いてるよ」
プロとして活動している尚さんだから言える台詞だ。鉄さんは濡れた食器を拭きながらそんな尚さんを見つめていた。
「まあ良かったじゃねーか。イーグルは人気も実力もある。お前が選んだ道は間違いじゃなかったってことだ」
……鉄さん。
確かに尚さんはイーグルのドラムで成功もしてる。でもそれを認める鉄さんは〝らしく〟ない。
それを悟(さと)った尚さんはマグカップをテーブルに置いた。
「……でも、トワイライトならもっと上に行けたよ」
ポツリと呟いた声は傍にいる鉄さんにしか聞こえない。
「今はそんなことを言ったって仕方ねーだろ」
鉄さんは表情ひとつ変えずに冷静に言った。そんな鉄さんに尚さんは苛立ちを隠せない。
「てめえはいつも仕方ないで済ませるよな。ならトワイライトが終わったのも仕方ないで済ませんのか?」
「………」
尚さんの声に店がざわざわとし始める。他のお客さんも尚さんがイーグルの尚だと気づいたみたいだ。