黄昏バラッド
「誰もそんなこと言ってねーだろ。今日は他にも客がいる。大声出すな」
そんな忠告を尚さんが聞くわけもなく、苛立ちは増している様子だった。
「はっ、騒ぎを起こしたら店長首になるしな。そしたらてめえはその歳で無職ってわけだ」
――ガシャンッ。さすがの鉄さんも我慢できなかったのか、食器を乱暴に置いた。
「さっきからなんなんだよ?喧嘩しに来たなら帰れ。ここじゃなかったらいくらでも買ってやるからよ」
不穏な空気が店に流れて息をするのも大変なぐらい。
「場所なんて関係なくするのが喧嘩だろ?さっさと無職になって勝負しろよ。いつま保険張ってるつもりだ」
「あ?」
「それともベースはお前にとって遊びなのかよ?てめえの中心にもう音楽はないってわけか?」
「いい加減にしろよ。なんでもかんでも思いどおりにいく世の中じゃねーんだよ」
鉄さんが尚さんの胸ぐらを掴むと、店の雰囲気は一気に緊張感に包まれた。
「だから思いどおりにするために努力すんだろ。てめえは今なにか努力してんのかよ?あ?」
……やばい。このままじゃ本当に殴り合いがはじまる。
「ちょっとふたりとも……」
私は勇気を出して止めに入ったけれど、その迫力に圧倒されてしまった。