黄昏バラッド


「サ、サクにとってはまだ5年なんですよ。それぐらい彩さんのことは……」

私がそう言うと尚さんの罵声がサンセットに響く。


「当たり前だろーが!!」

ビクッとあまりの迫力に足がすくんでしまいそうになった。すると尚さんは深呼吸して私の目をじっと見つめる。


「5年であいつが立ち直るとも思ってないし、思いたくもねー」

「………」

「5年でも10年でも20年でも高瀬のことを忘れられないって分かってんだよ」

尚さんの声が震えていた。

サクと同じように尚さんにとっても彩さんは大切な人。


「……俺だってそう。何年経ってもちっともいなくならねえ。だからってずっと立ち止まったままじゃ腐るだけだ」

私はこの時、尚さんが前に言った言葉を思い出していた。


――〝苦しくても悲しくても、向き合って必死で生きてるヤツもいる。自分たちが一番不幸みたいな顔してんじゃねーよ〟

彩さんが亡くなって、立ち直れないほどツラかったのはサクだけじゃない。


「トワイライトは高瀬が作ってくれたバンドなんだよ。そのバンドまで死なせるわけにいかねーんだよ」

気づくと尚さんが……。

あの尚さんが私に頭を下げていた。


「頼む。亮の居場所を教えてくれ」

私は考える暇もなく、自然と口が動いていた。


「中央公園……。サクは今そこにいます」


これは尚さんに圧倒されたからじゃない。脅されたわけでも恐怖に勝てなかったわけでもない。

〝今〟じゃないとダメだと思った。

トワイライトが再び動き出すチャンスは今なんだって。

それを逃したらきっと彩さんが望んだ日々は二度と訪れない気がしたから。
< 220 / 270 >

この作品をシェア

pagetop