黄昏バラッド


暫く歩くと、穏やかなメロディーが耳に聞こえてきた。

――♪♪♪。

この曲調は間違いなくサクだ。それに気づいた尚さんはメロディーに呼び寄せられるように歩いていく。

そして、私の目にギターを弾きながら座るサクの姿が目に入った。


「よう、久しぶりだな」

サクの目の前で、尚さんの足が止まった。


……ドクンドクン……。

口から心臓が飛び出そうだ。だけどきっとサクの心臓のほうが大変なことになってるはず。


「……尚」

5年ぶりに呼ぶ尚さんの名前はやけに重く聞こえた。

サクの表情は一瞬動揺していたけど、私と鉄さんを見つけるとすぐに状況を把握したようだ。


「元気そうだな。まさかこんな場所で音楽やってるとは思わなかったぜ」

「………」

尚さんの口調は普通だったけどそれが逆に怖い。まるで嵐の前の静けさみたいで。


「音楽、辞めたんじゃなかったのかよ?」

「………」

「なんで5年間顔見せなかった?俺たちとそんなに縁を切りたかったってわけか?」

尚さんは今までの不満をぶつけるように質問したけど、サクはずっと無言だった。
< 222 / 270 >

この作品をシェア

pagetop