黄昏バラッド



「……なあ、亮。いつまでこんなところで腐ってんだよ。いつまでひとりで背負いこんでるつもりだよ?」

尚さんの口調は厳しいけど優しかった。それに反応したサクはうつ向いてた顔を上げた。


「ツラいのはてめえだけかよ?泣きたくて泣けないのはてめえだけかよ?亮」

そうだ。泣きたくて泣けなかったのはみんな同じ。

だって音楽に対しても、夢に対しても、彩さんに対しても。みんなみんな同じ気持ちで青春時代を過ごしていたはずだから。


「……歌えよ。ただ音楽が好きで歌が好きで夢を追ってたあの頃みたいに」


胸が熱くなった。こんなにも強い絆を私は知らない。

尚さんはゆっくりとサクと同じ目線に座り、弱いその肩に手を触れた。


「もうこんな狭い世界で生きるのはやめようぜ。俺たちがいる。お前はひとりじゃねーよ」


――その時、サクの頬に一筋の涙が流れた。


サクはどれほど自分を責めていたの?

暗くて長い夜をひとりでどうやって過ごしたの?

でももう大丈夫。

サクがどれだけ距離をとっても、みんな離れていかない。

それはサクだから。

サクが誰よりも優しい人だからみんな戻ってくるの。

だからムリして前に進まなくても、誰かが背中を押してくれる。そしたら身を委ねてゆっくりと踏み出せばいい。

サクは重たい糸が切れたのか、ボロボロと瞳から涙が溢れていた。
< 226 / 270 >

この作品をシェア

pagetop