黄昏バラッド


サクがどんな仕事をしてるとか、何時に帰ってくるとか私は知らない。

でもひとつだけ分かるのは、もうこの部屋にはいられないことだけ。だってサクが帰ってきて、私が平然といたらおかしいでしょ?

おかえり、なんて笑顔で迎えるキャラじゃないし、サクは優しいから事情を話せば今日も泊めてくれるかもしれないけど……。

私はそこまで図々しい人間にはなりたくない。


私は着ていたスウェットを脱いで、自分の制服を着た。

多分この家を出たらこの部屋にもう二度と入ることはない。だからちょっとだけ、ほんの少しだけサクの物に触ってもいいかな?


私はおそるおそる、スタンドにかけられたサクのギターに触れてみた。

ギターの弾き方なんて知らないけど、サクが弾く音色はすごく心に響いた。


あの長い指でギターを弾く姿だけは少し男らしかったな。

ギターの横には大量の楽譜。楽譜なんてもちろん読めないけど、全部手書きみたい。


これがどんなメロディーなのか私には想像できないけど、サクが作った曲ならきっと優しい歌だと思う。
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