黄昏バラッド
私はサクに置き手紙を書いた。
本当は直接お礼を言いたかったけど、顔を見たらまた甘えてしまいそうで怖いから。
【ありがとう】
書いた文字は一行だった。
名前も素性も分からなかったけど、サクみたいな人がいるんだって思ったら少し安心した。
もう呼ばれる事のないノラって名前も別に嫌いじゃなかったよ。
私はスウェットとベッドを綺麗に直して、サクの家を出た。言われたとおり鍵はポストの中へ。
これからどこへ行こう?
そんなこと考えても分かるわけないのに。
ーーと、その時。
頬になにか冷たいものが当たった。
「……雨?」
ポツポツと小降りだった雨は次第に本降りになり、私は慌ててアパートの屋根の下に移動した。
「……これ止むのかな」
さっきまで晴れてたから通り雨だと思うけど、本当にタイミングが悪い。家を出る前に天気予報ぐらいチェックすればよかった。