黄昏バラッド
「どうしたの?」
サクが遠く感じる。
ううん、サクははじめから遠い人だったのかもしれない。
「なんでもない」
そう笑顔で返すと、私は再び歩き出した。
「どこにも行かないでね」
……聞き間違いだろうか?私の心の声が聞こえた。
振り返るとやっぱりそこにはサクしかいない。
「……なんて、ね」
呆然としている私にサクがそっと頭を撫でる。
「時々思うんだ。ノラはふっと現れて、ふっといなくなっちゃうんじゃないかって」
「………」
「……違う?」
違うと言えないのはなぜだろう?
大丈夫、ここにいるよって言えないのは私を縛るものがなにもないから?
サクもどこにも行かないでって言えないのは、
サクを縛るものがないから?
ううん、違う。
サクはしっかりと未来に向かって歩き出したのに、私は止まったままだからだ。
中途半端にしてきたことが沢山ある。やらなきゃいけないこと。解決しなきゃいけないものが私にもあるの。
「帰ろう、家に」
サクはそう言って私の手を引いた。その手は暖かくて優しい。私は手を強く握り、輝く夜空を黙って見上げていた。