黄昏バラッド


置いてきぼりな気持ちになるのは私がまだ前に進んでいないから。


「……そういえばイーグルのツアー大成功したみたいですね」

そんな気持ちを隠すように、私はまたお皿を洗い始めた。


「ああ。らしいね。昨日尚から連絡があって今日はまたここで音合わせをするって騒いでたけど」

イーグルのことは今朝のテレビで知った。以前は歌番組や音楽関係のテレビは見なかったのに、最近のサクはよく見るようになった。

これもサクの中でなにかが吹っ切れた証拠だと思う。

「一応亮にも来れたら来てって連絡したんだけど、麻耶ちゃんなにか聞いてる?」


トワイライトが再始動してからサクは色々忙しくしている。今までは自分のためだけに音楽を作っていたけど、今は違う。

曲調も歌詞もトワイライト用に演奏するために何曲も作曲している。そのせいか公園で歌う回数は減った。

いや、もうサクは公園で歌う必要はないんだよね。

トワイライトはこれから音楽の世界で生きていけるバンドなんだから、あんな狭いところで歌う意味はない。


「いえ、私はなにも聞いてません。連絡したなら多分来ると思いますよ」

私は精いっぱいの笑顔でそう答えた。

サクのことをなんでも知ってるなんて思ってないし、私に報告する義務もない。それを寂しいと思ってしまうのは、私がまだ幼いからだ。
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