黄昏バラッド


サンセットの昼営業が終わり、私は帰る準備をしていた。

その間に尚さんが店にやって来て、もう頭は音合わせのことでいっぱいのようだった。


「それじゃ、お先に失礼します。お疲れさまでした」

「あれ、今日は演奏聞いていかないの?」

サンセットの店内を片付けて、楽器の準備していた鉄さんが優しい気遣いをしてくれた。

「今日は帰ります。音合わせの邪魔になりたくないし」

私はそう言ってサンセットを出た。


これは完全に強がりだ。トワイライトの演奏なら何回だって聞きたい。きっとまた涙が出るほど綺麗で、鳥肌がたつぐらいの衝撃なんだと思う。

でも同時にキラキラしているみんなを見ると、自分がちっぽけに感じるの。

私がやりたいことはなに?
やらなきゃいけないことはなんだろうって。


「……あれ、ノラ?」

家路へ帰ってる途中、前方からサクの姿が見えた。

肩にはギター。行く場所はもう分かってる。


「これからサンセットに行くんだよ。ごめんね。朝言おうと思ったんだけど言い忘れちゃって」

サクは相変わらずだね。私に謝る必要なんてないんだよ?

「鉄さんから聞いたから知ってるよ。音合わせでしょ?」

私はサクがトワイライトに戻ってくれて嬉しいし、頑張ってるサクを応援したい。

……でもね。


「一緒に行こうよ?」

サクが私の腕を掴んだけど、それをゆっくりとほどいた。


「ううん。今日はいいや。音合わせ頑張ってね」

でもね、サクを見上げてばかりじゃいられない。

踏みだす勇気はもう心の中にある。そのタイミングを作るのは自分だ。
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