黄昏バラッド
サンセットのバイト中、なぜか心は晴れやかだった。想像ではもっと沈んだ気持ちでいると思っていたのに。
「じゃ、お疲れさまでした」
私は他の従業員たちにはいつもどおりに接した。私が辞めることは落ち着いたら鉄さんの口から話してもらうことになったから。
「麻耶ちゃん、待って」
外に出た瞬間、鉄さんが私を追ってきた。
「これ先月の分だから」
そう言って無理やり握らされたのは茶色い給料袋。触った感覚は分厚くて、明らかに私が働いた分より多くある。
「鉄さん。これは……」
お金なら持ってるし、私には帰る電車賃だけあれば十分。
「麻耶ちゃんが頑張った分だよ。なにも言わず受け取って」
私は鉄さんになにも返せてない。恩なんて言葉じゃ足りないほど。
「ありがとうございます。鉄さん」
私は震える手でその気持ちを受け取った。
未来は明るい。
こんなに優しい人が背中を押してくれたんだからそうに決まってる。
そして別れ際に鉄さんは私に向かってこう言った。
「サンセットは麻耶ちゃんにとっても始まりの場所だろ?だから……」
その言葉の続きはなかったけれど、私には分かる。
〝だからいつでも帰ってきなよ〟
私にはそう聞こえた気がした。