黄昏バラッド


「本当だ。ノラの手は暖かいね」

サクはなんだか嬉しそう。私は包みきれないぐらい大きなサクの手を何回も擦(さす)った。


「大事にしないと。この手で沢山の曲を生み出すんだから」

人の心を動かすメロディー。涙が出るほど綺麗な音楽をサクはこれから大勢の人に届けていくだろう。


「おかげで暖かくなったよ。なにか聞きたい曲はある?」

サクは再びギターに触れて歌う準備を始めた。

こんな贅沢は他にないよね。サクが私のために歌ってくれるなんて。


「奏で。サクと初めて出逢った時に弾いてた曲」

サクは頷いて、曲が始まるとあの日の感情がスーッと体の中に入ってきた。


――♪♪♪…♪……。

なにもかも捨ててきたはずなのに、涙を流させてくれたこの曲。このメロディーが私の世界を変えたの。


〝なんかキミ、昔うちで飼ってた猫に似てる〟

こんな言葉で私たちの関係は始まったんだっけ。今考えれば可笑しいね。


♪…♪♪♪……。

多分私たちはお互い心に隙間があって、その淋しさがあったから強く共存できたんだと思う。

サクの心にもう隙間はない。

私の心もサクが全部埋めてくれた。
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