黄昏バラッド
流れる涙は拭いても拭いても流れてくる。
ラブソングは歌わないって言ってたくせに。
僕だけのノラって本当に私のことを猫だと思ってたのかな、なんて、泣きながら心の中で問いかけると……。
『なに言ってるの?そんなわけないでしょ』って優しくサクが答えてくれた気がした。
――ねえ、サク。
寂しいけど寂しくないって不思議だね。だって目を閉じるとすぐに歌を歌うサクが浮かんでくる。
それに私にはサクがくれたこの歌があるから、なにがあったって前に進めるよ。
いつかこの曲をサクの口から聞いてみたいけど、サクの歌声は心にちゃんとあるから大丈夫。
ありがとうサク。
ありがとう亮。
そして私は歌詞を抱き締めながら、生まれ育った町に近づく窓からの風景を見つめていた。
ノラとしての私。弱虫だった私。
大丈夫、私はもう逃げないから。
電車がゆっくりと停車すると、私はスッと腰を上げた。
私の名前は北原 麻耶。
今未来に向かって、一歩踏みだした――。