黄昏バラッド
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「失恋でもしたの?それとも家出かな?」
ふっと気がつくと隣に誰かが座っていた。いつの間にか歌も終わっていて人も数人しかいなくなっていた。
私は慌てて涙を拭いて、話しかけてきた人の顔を見た。それはさっき歌を歌っていたストリートミュージシャンだった。
「俺の歌で泣いてくれたのかと思ったけど、違うみたいだね」
なぜか泣き顔を見られたくなくて、私は無言でうつ向いた。話しかけられたその声は包みこむような歌声とは違って少し低くて別人みたい。
「ひとりでいたら危ないから、早く明るい所に行きな?」
そう私に言ったあとで、立ち去る足音が聞こえた。
チラッと見ると右肩にギターをかけて、暗闇に消えていく後ろ姿。
人がひとり、またひとりといなくなっていく公園はとても静かで今は木々がざわつく音しか聞こえない。
ふっと目線をずらすと、私の足元にはオレンジジュースの缶。
フタの空いていないジュースを見て、さっきの人が置いていったんだろうと思った。
その些細な優しさにまた泣きそうになった。