黄昏バラッド
:唄う人
中央公園にはサクと同じ〝唄う人〟が何人もいた。年齢も様々で、ジャンルも人それぞれ違う。
サクは慣れたように、噴水の近くの場所に腰を下ろした。
ここは初めてサクを見た場所と同じだ。
「サクはいつもここなの?」
正直ここは人気(ひとけ)がない。もっと目立つ所とか人がたくさん集まりそうな場所があるのに。
「うん。一応、許可取ってこの場所を借りてるんだ。勝手に歌ってるように見えるけど実はちゃんと規定があるんだよ」
ふーん。難しいことは分からないけど、みんな遊びでやってるわけじゃないんだ。
場所を借りてまでやるってことは、何かしらの目的があるってことだもんね。
サクはその場であぐらをかいて、ギターを弾く準備をした。
マイクとか小道具は一切ない。
あるのはサクの声とギターの音色だけ。
楽譜もきっと、サクの頭の中にあるんだろうね。やっぱりそれって他の人には真似できないことだと思う。
「お客さんはノラだけだね。なにかリクエストありますか?」
サクはニコッと笑って、私を見た。
サクの目線に合わせるように私も座り、ただひと言だけ言った。
「あの曲……歌って」
ずっと頭の中で消えなかったメロディー。
――♪♪♪♪
サクは静かにギターを弾き始めた。
ほらね。まだイントロだけなのに心を持っていかれる。
サクの歌声は話す声と全然違って、なんだか別人みたい。スーッと体の中に染みこんでくるこの声を素敵な言葉で表現したいのに残念ながら思い付かない。
それぐらい私の辞書にない感動よりももっと上なんだ。
サクは音楽が好きで、音楽を奏でる人で、音楽を作る人。
そして〝唄う人〟なんだね。
なんだかサクを見ながら改めてそう思ったよ。