黄昏バラッド


「……歌を歌うためでしょ?」

私がそう言うとサクの足がピタリと止まった。


サクは沢山の人に聞いてもらえなくてもいいって言ってたけど、サクの生活の中心には歌がある。

それって本当に自分だけのためなの?


「……ごめん。ちょっと偉そうだったかな。でもやっぱりサクの歌はこの公園だけで歌うにはもったいないよ……」

私は勇気をだして本音を言ってみた。


これは本当に本当のことだよ。

部屋に沢山の楽譜があって、きっと毎日新しいメロディーが生まれている。サクの声、サクのギターはこんな小さな場所じゃ収まりきらない。


「ありがとうノラ。でも本当に俺は自分のためだけに歌ってるんだ」

「………」

「こんな歳になっても音楽を捨てられないなんて、本当にダメな大人なんだよ」


まるで自分を戒(いまし)めてるように繰り返す。

普段滅多に怒りなんて湧かないけど、今だけはサクに怒りたかった。


どうして音楽を捨てる必要があるの?

別に好きなら歳なんて関係ないじゃん。

サクにとって音楽が自分だけのモノだったとしても、それって悪いことじゃないでしょ?

サクはメロディーが生まれるたびに、この公園で歌ってるたびに自分のことをダメな大人だって思ってるの?


あんなに綺麗な曲を作るサクがそんな風に思っちゃダメ。

絶対にダメだよ。
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