黄昏バラッド
悪い人ではないと思うけどサクと訳ありっぽいし、どう接したらいいか分からない。元々フレンドリーな性格じゃないし、距離感が近い人には一歩下がってしまう。
「あ、ってか名前聞いてなかったよね?えーと、なにちゃん?」
思えば私って正直に答えられるものがひとつもないんだな。私の名前。私の名前は……。
「……ノラ」
きっと笑われる。
でも今の私の名前はこれだから嘘なんて付いてないよ。
「ノラ……ちゃん?なんか猫みいな名前だね」
その通りです。でも案外普通のリアクションが返ってきてビックリ。もっと「なにそれー」とか「面白いこと言うね」とか、からかわれると思ってた。
「それって亮が付けたでしょ?」
「え?」
あまりに自然体で言われたから、動揺が顔に出てしまった。鉄さん口元を緩ませてポケットからタバコを取りだした。
なんでバレたの?むしろこの会話自体おかしいんだけど……?
「当たりっしょ?付けるならもっと可愛いのにしろって文句言った方がいいよ?」
鉄さんがくわえるタバコからは今まで嗅いだことのない甘い香りがした。
その香りは私の頭をクラクラさせて、頭に疑問ばかりを浮かばせる。
付けるならもっと可愛いのにしろ?それは一体どうゆう意味?サクって私以外にも名前を付けた経験があるってこと?
ぐるぐると色々な妄想をしてる中、クスッと隣から笑い声が。
「あーなんか誤解してるみたいだけど違うよ?亮が昔飼ってた猫がノラって名前だったからさ」
鉄さんはタバコをコンクリートに押し付けて、またタバコに火をつけた。