黄昏バラッド
そのあと鉄さんは話を変えるように笑顔に戻った。
「あーなんか暗い空気になっちゃったな。話を変えよう!……んで?ノラちゃんはここでなにをしてたの?」
結局話は振り出しに戻っただけだけど、私はほっとしている。
これ以上サクのことは聞いちゃダメだ。サクはなにも言わないし、なにも聞いてこないから。
今はそんな関係が心地いい。多分サクもそう思っていると思うし。
「……バイトを探しに来たんです。でも色々と難しくて」
私は今ある問題をなんとかしなきゃいけない。サクに負担はかけられないし、今すぐにでも働ける場所を見つけたいのに……。
「そうなの?ってかノラちゃんって家出少女でしょ?」
「………」
なんでこの人には色々とバレちゃうんだろう。勘が鋭いというか、見透かされてるみたいでちょっと怖い。
「お、また当たり〜?俺も学生の時は家に帰んなかったから大体分かるの」
……不良だったんだろうな、鉄さんって。
非行で家に帰らないなんて可愛いもんだよ。私の家出は帰らないんじゃなくて、帰れないんだよ。だから鉄さんとは違う。
「バイトには履歴書がいるもんなぁ。あれ書くの面倒だよね」
「………」
面倒って、27歳の大人が言う台詞じゃない気がする。
それより鉄さんってタバコを何本吸うんだろ。まだ会って数十分なのに、足元には五本の吸殻がある。
その吸殻をぼんやり見つめていると、鉄さんの声が耳に響いてきた。
「じゃあ、ノラちゃんうちの店で働く?」
「え……?」