黄昏バラッド
「んじゃ、とりあえず店の名刺渡しておくから」
結局返事を出せないまま、鉄さんとは別れることになった。
店の名前は【サンセット】
本当にカフェ&ライブハウスって書いてある。
「気が向いたら電話してよ。別に難しい仕事じゃないからさ」
私にとってはすごくありがたい話。だって素性も分からない私を雇ってくれるって言ってるんだから。
「はい。少し考えてみます」
引っ掛かっているのはサクのこと。
私が鉄さんの店で働くって言ったらどう思うかな……。それが気になるからすぐに返答ができなかった。
鉄さんは乗ってきたバイクに股がり、エンジンをふかした。
「……あ、ノラちゃん」
そのエンジン音の中、鉄さんが思い出したように私を呼ぶ。
「はい?」
「亮のこと、よろしくね」
鉄さんはそう言い残して、走り去って行った。
それがどういう意味なのか、やっぱり私には分からない。むしろ、サクによろしくされているのは私のほうなのに。
サクが帰ってきたら今日のことをちゃんと言わなきゃ。
私だってサクに隠してることがいっぱいあるけど、ノラとしての私は隠しごとはしたくない。
とくにサクだけには。